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CMT

先天性欠如

先天性欠如
先天性欠如の発生頻度
出所:日本小児歯科学会学術委員会
「日本人小児の永久歯先天性欠如に関する疫学調査」
「あなたのお子さん、
生まれつき永久歯がありません。」

そのような指摘をされたら、びっくりしますよね。
だって、乳歯の下には、永久歯が生える準備をしているのが当たり前だと思いますよね。
ですが、実際に10人に1人の確率で、生まれつき永久歯がないお子さんがいるのです。

人間の歯は全部で何本有るかご存じでしょうか?
乳歯の始まりは、ママのお腹の中から。妊娠2~3ヵ月で全部の乳歯の芽(歯胚)ができ、永久歯の芽も妊娠5ヵ月頃からつくられ始めます。そして、生まれてから歯として生えてきます。乳歯は全部で20本、永久歯は親知らずまで入れて32本です。それらの歯が生まれながらに(先天的に)ない場合を“先天性欠如”(先天性欠損・先天性欠如歯)と言います。

歯の先天性欠如は病気ではなく、形成異常の1つです。生まれつき歯の数が足りないため、生えてくるはずの歯が生えてこない異常で、乳歯にも永久歯にも見られます。乳歯が先天性欠如することは希ですが、永久歯列ではよく起こります。日本人の先天性欠如の発現頻度はおおよそ10%程度。多くは側切歯(犬歯の前隣の歯)や第二小臼歯(犬歯から奥に2番目の歯)に発現します。

乳歯の先天性欠如は上下とも前歯(特に乳側切歯)に多く見られます。また、上下の歯では、下あごの歯に起こりやすいです。乳歯が先天性欠如だからと言って永久歯も先天性欠如だとは限りませんが、乳歯先天性欠如の場合、2分の1以上の確率で生え変りの永久歯も先天性欠如するという報告もあります。

先天性欠如の原因
残念ながら
予防方法が無いのです。

歯の基となる「歯胚(しはい)」は、お母さんのおなかの中にいるときに作られます。一般的に、顎骨の中で乳歯の歯胚の形成が始まるのは胎生7週ごろで、胎生4か月ごろには歯が硬くなる「石灰化」が始まります。そして、個人差はありますが、生後半年ほど経つと、乳歯が生え始めます。
永久歯は6歳ごろに生え始め、12歳ごろには第三大臼歯を除くすべての永久歯が生えそろいます。驚くことに、一部の永久歯の歯胚も、お母さんのおなかの中にいるときに形成されます。
先天性欠如は、何らかの理由で歯胚が作られないことで起こります。乳歯にも永久歯にも見られ、1本もしくは2~3本だけ欠如することもあれば、まれに10本以上欠如することもあります。

先天性欠如がなぜ起こるのか、この明確な原因はわかっていませんが、次のようなことが原因として考えられています。

・遺伝によるもの
・薬物の副作用によるもの
・全身的な病気の影響
・妊娠時の栄養不足によるもの
・歯の退化現象として起こったもの

などが考えられると言われていますが、はっきりしたことはわかっていません。
そのため、残念ながら予防方法もありません。

先天性欠如による影響
乳歯を
一生残すのは困難です。

先天性欠如により永久歯が生えてこないと、乳歯が抜けずにそのまま残ります。
乳歯は永久歯が押し上げることにより抜け落ちますが、永久歯がない場合、乳歯は残ってしまいます。
しかしこの乳歯は一生残るかと言えば、そうとは限りません。
乳歯は永久歯と比べて歯根が短く、少しずつ歯根が吸収されていき、やがて抜け落ちてしまいます。また乳歯は永久歯と比べて虫歯になりやすいため、虫歯になって治療を繰り返しているとやがて乳歯を失ってしまう場合もあります。
いずれは抜け落ちる可能性が高い乳歯ですが、歯並びなどに影響を与えないためにも、しっかりと管理しておく必要があります。
一生残すのは困難です。

先天性欠如によるリスク
先天性欠如を放置することが
最も危険です。

乳歯が抜け、歯がない状態が長期間続くと、問題やリスクが高まります。
当然ながら審美性(見た目)に影響が出てきます。
また、抜けた両隣の歯が倒れ込んできたり、噛み合うはずの位置の歯が伸びてきてしまうことがあります。このような状態になると噛み合わせが悪くなってしまい、歯並びや咀嚼に影響が出てしまいます。また歯並びが悪くなるとプラークが溜まりやすくなるため、虫歯や歯周病の原因にもなります。
歯にはそれぞれ役目が決まっており、単に1、2本の歯が少ないということだけでは済まされない いろいろな機能的な問題が生じることがあります。左右的、前後的、上下的なアンバランスな状態から、上下顎骨の正常な発達が妨げられ、しいては顎の変形、顔貌の変形にもつながる事があります。
先天性欠如の部位、乳歯・永久歯に発現するパターンから問題が起きかたも変わってきます。

先天性欠如は一般的に7歳までに歯科医で問題がないか確認をしてもらいます。これは大人になってからよりも子供のうちのほうが治療がしやすいからです。
しかし、大人になってからでは遅いということではありません。
大人の方が先天性欠如のリスクは高いといえます。
隣の永久歯までも無くしてしまわないよう、十分な検査・診断が必要です。

先天性欠如の治療法
先天性欠如はしかたないとしても
健康な歯まで無くしたくはないですよね?

乳歯が抜けてしまった場合、これまでは、矯正治療により隙間を閉じて、歯並びや噛み合わせを整えていく方法が一般的でした。
しかしこの場合は、顎の小さい方(=お子さん)に向いている治療法で、永久歯がない部分の隙間は前後の歯を動かして閉じます。上下左右のバランスをとるために追加で抜歯する必要がある場合もあります。
ただ先天性欠如の部位や本数によってはバランスをとるのが難しくなる場合もありますので、細心の注意が必要です。

年齢や状況によって異なりますが、ブリッジなどの被せもの・入れ歯・インプラントなどで隙間を埋める治療を望まれる患者さんも年々増加傾向にあります。
ただし、ブリッジもインプラントもある程度、大人の咬み合わせになって顎の骨がしっかりしてこないとできません。それまでは、できるかぎり乳歯を温存するか、周囲の歯が倒れてこないように、入れ歯や保隙装置などを入れる必要があります。

乳歯が残っている場合、乳歯を抜歯するかどうかは長期的な判断に委ねられ、すぐに抜歯するとは限りません。
歯並びなどに悪影響が出ないよう、できるだけ乳歯を保存する方向で計画を立てます。

治療法は大きく分けて2つ
矯正治療

矯正治療によって、欠損している部分の隙間を閉じたり、今ある歯の本数で咬み合わせをつくり治療を行います。しかし、お子さんに向いている治療法です。上下左右のバランスをとるために抜歯する必要がある場合もあります。

歯が足りない部分を人工歯で補う

部分入れ歯やブリッジ、インプラント治療など、人工の歯を入れることで欠損している部分を補い治療します。しかし、ブリッジや部分入れ歯は人工の歯を支えるために、健康な歯を削る必要があります。

私たちの治療

一般的な矯正治療は歯列にあるスペースを空けないようクローズして動的治療で終えます。
しかしこの場合は、顎の小さい方(=お子さん)に向いている治療法です。また、先天性欠如の部位や本数によってはバランスをとるのが難しくなる場合もあり、追加で抜歯する必要がある場合もあります。
また、補綴治療の場合、健康な隣接歯を削らなくてはならず、隣接歯が欠損部へ傾斜してしまっている場合は、削除量の増加や歯髄処置が必要になることも考えられます。

理想的な治療方法としては、最小限の歯の侵襲で審美的にも機能的にも問題のない、先天性欠如部単独での補綴治療です。
矯正治療のよる必要な空隙の確保をする矯正治療とインプラント治療による単独補綴の併用によって、形態的・機能的改善が得られるのみならず、隣接歯の切削が不要になるなど、患者さんにとって理想的な保存的アプローチによる歯科治療が最も先天性欠如の治療に適していると私たちは考えます。